音楽大学の必要性

一般社団法人福岡音楽大学設立の会
副会長 松尾 興
声楽家、福岡大学附属大濠高等学校教諭

1 .はじめに


 全国には音楽大学や芸術大学など音楽学部を持つ大学が38大学存在します。
ところが、残念なことに九州最大の都市である福岡県には、音楽大学または音楽学部がある4年制大学が存在しません。
 そのため、芸術音楽(クラシック音楽)の道を志す九州地区の才能ある高校生達が、音楽大学への進学を断念しているという状況が、長年にわたって繰り返されています。
 その原因として一番多いのが経済的理由です。例えば、関東圏の音楽大学へ進学した場合、近年における1年間の学費は200万円から210万円。4年間で800万円を超えます。
 さらに音を出すことのできるマンションやアパートの家賃と生活費で年間180万円から200万円、学費と合計すると4年間で実に1,600万円程度の出費となります。
 これでは一般の家庭において音楽大学への進学に頭を悩まされるのは当然でしょうし、その結果多くの進学希望者が受験を断念するという事態が起きています。また、進学を断念する他の理由として、自身の将来や就職についての不安もあるようです。
過去には女子だからという理由で東京への進学を保護者から反対され、九州圏内の音楽科のある大学や短大へ進学された方々からは、「もし福岡に4年制音楽大学があったら、そこで学ぶことができたのに。その悔いが今も残っている。」という声が数多く寄せられています。
 このように、多くの方々が音楽大学進学を断念している状況は現在進行形で起きているだけでなく、過去に遡って何十年も前から存在している深刻な問題なのです。
 さて、ここ福岡は祭りやスポーツが盛んである反面、芸術音楽における活動レベルは大変低く、都市に根付いているとは言えません。一方、音楽大学のある都市では、自然とそこへ演奏家をはじめとする音楽関係者が集まり、その活動によって芸術音楽のすそ野が広がり、いつしか音楽文化が根付き華を開かせるのです。研究者による学術研究のみならず、演奏家や教授陣、学生によるリサイタルやコンサート、さらに音楽大学を拠点として国際音楽祭、国際オペラフェスティヴァル、国際コンクール等、福岡を芸術都市へと押し上げる大きな可能性を秘めています。
 また施設面では、大人数を収容する多目的ホールはあっても、芸術音楽にふさわしい音響設計がなされたコンサートホールは、アクロス、あいれふ、響きホールの3か所しかありません。
 さらに全国の多くの大都市に存在するオペラハウスが、九州のどこにもないのです。
 このような状況を変えるために、私たちはこの福岡に4年制音楽大学を設立したい、しなければならないと考えています。

2 .全国の音楽大学設置状況


 ところで、全国にある音楽大学の設置状況はどのようになっているのでしょうか。以下、全国音楽大学、音楽学科等を持つ大学の一覧ですが、ご覧の通り福岡県には4年制音楽大学はありません。


【札 幌】札幌大谷大学、北翔大学
【東 京】東京芸大、お茶の水女子大、国立音大、武蔵野音大、桐朋学園音大、東京音大、
     玉川大、上野学園音大、桜美林大、日本大
【埼 玉】尚美学園大、東邦学園大
【神奈川】昭和音大、洗足音大、フェリス女学院大、東海大
【千 葉】聖徳大
【愛 知】名古屋音大、名古屋芸大、愛知県立芸大、金城学院大
【京 都】京都市立芸大、同志社女子大
【大 阪】大阪音大、大阪芸大、相愛大学
【兵 庫】神戸女学院大、武庫川女子大
【岡 山】作陽大学
【広 島】エリザベト音大、広島文化学園大学
【徳 島】徳島文理大
【福 岡】無
【長 崎】活水女子大
【熊 本】平成音大
【鹿児島】鹿児島国際大
【沖 縄】沖縄県立芸大

3 .定員確保の可能性


 大学を新設する際にまず確かめなければならないのは、はたして「定員確保」ができるかということです。
要するに、受験生が集まり入学する数が、入学者定員を満たす可能性が確実にあるのかということです。
そこで、私たちは演奏家をはじめ、教育現場の先生方や音楽教室等で教えるレスナーの先生方等、音楽に関わる多くの方々にこ意見を求めました。
 そこでは「福岡に音楽大学があれば、音楽を学ぶ多くの学生に進路における希望を与えることができるし、間違いなく福岡の芸術音楽文化の向上発展につながる。」という賛同のご意見を多くの方々からいただきました。もちろん「音楽大学進学者が減っているので、難しいのではないか。」という疑問の声もありました。
 そこで、私たちは実際に音楽を学ぶ現役高校生に直接その考えを聴く実態調査を実施しました。

4 .音楽大学進路希望実態調査 (2018年10月実施)


①アンケート調査対象校
アンケート調査の対象校は、福岡県4地区11校。対象生徒は合唱部や吹奏楽部等の音楽部に所属する1年生407名です。2・3年生については、すでに文系理系等の進路を定めている者が多いため、ここではあえて進路を定めていない1年生を調査対象としました。
学校名はふせますが、地区別学校数は以下の通りです。
【筑豊地区】H校(合唱部、吹奏楽部)
【筑後地区】B校(合唱部)、C校(合唱部、管弦楽部)
【北九州地区】D 校(合唱部)
【福岡地区】E校(合唱部)、F校(合唱部、吹奏楽部)、G校(合唱部)
      H校(吹奏楽部)、I校(吹奏楽部)、J校(吹奏楽部)、K校(管弦楽部)

 

②アンケート結果
アンケートでは、一般的な質問の後、問9 、問10 において「福岡音楽大学への進学について」問いました。

 

問9 あなたは新設する福岡音楽大学(仮称)のどの学科・科に興味を持ちましたか。

ピアノ 声楽 管弦打  幼児教育 音楽教育 メディア マネジメント
割 合  11%  7% 23% 15% 16% 8% 8% 88%
人 数  45名  28名 93名 61名 65名 33名 33名 358名

問10 福岡県内に音楽大学があれば、進路の選択肢の一つとして考えますか。

選択項目 興味がある 受験したい 東京•関東志望 興味なし
回答の割合 65% 10% 10% 15%
人 数 264名 41名 41名 61名

「音楽大学を受験したい」(福岡および東京・関東圏)・・・20% 、81 名
「音楽大学進学に興味がある」「受験したい」「東京・関東志望」を合わせると、85% 、346 名

5 .実態調査から見えてくるもの


 この調査は、福岡県内のわずか11校407名の1年生音楽部員ヘアンケート実施した結果です。
 407名中実に20%81名が受験したいと明確に回答し、それを含む85%346名が、少なくとも福岡音楽大学への進学に興味を持っているという結果が出たのです。もし、これを福岡県全体166校、さらに九州・沖縄646校の進学希望者を対象に考えた場合、相当数の進学希望者が存在することが容易に推測できるでしょう。また、ここにはヴァイオリンやピアノ、声楽を個別に学ぶ生徒は対象となっていません。
 後述しますが、私たちが考える福岡音楽大学は大人数の大学ではなく、1学年の定員をわずか150名としていますので、この入学定員数を満たすには十分すぎる調査結果であることが推測できると考えています。